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映画制作の現場で活躍する"作り手"の方々にスポットを当てた連載企画「MOVIE MAKER」
第2回のゲストは、映画監督のほか、ライター、シャンソン歌手としてもマルチな才能を発揮するさそり監督です。

公開から10年近く経つ今も未だカルト的人気を誇る、
『魂のアソコ』。制作期間10年をかけ、2002年に公開された作品は全国各地の多くの若者に支持されました。"さそり"のネーミングの由来、影響を受けた監督や作品まで様々な話を伺ってきました。

写真: 片山亮

映画監督"さそり"が出来るまで


‐‐‐ 映画を撮り始める前のことを教えてください。

さそり監督(以下略): 元々は俳優だったんですよ。井筒和幸監督や周防正行監督、竹中直人監督など、一流の監督達の現場で、どういう風に撮影が進められいくのかってことを自然に学ぶことが出来たんです。でもその時は制作現場の過酷さを目の当たりにしていたので、私には監督は無理だなって思ってました。俳優に徹していこうと。

‐‐‐ 俳優から映画を撮るようになる転機のようなものが何かあったのでしょうか?

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カルトムービー
出演: しじみ、バイナリキッド、
元気安、山田伊久磨
撮りたいと最初に思ったのは小学生の頃からで、本当に遊びでヒーロー物やカンフー映画みたいなものを8ミリカメラで撮影していたんです。ただ当然お金も持ってないですし、編集なども大変でしたけど。割と子供の頃から映画で表現する、っていうのはやってました。

その後撮ることはあまりやってなかったんですけど、友人でもあった漫画家山田花子さんが根本敬さん原作『こじきびんぼう隊』という作品の舞台に出演する直前に、山田さんが自殺してしまったんですよ。その後遺作の『魂のアソコ』を舞台化しました。そこでどうしても『魂のアソコ』を映画にしたい、っていう気持ちが起こったんです。

映画館なんかは当然相手にしてくれなかった。だから自分でチラシ5万枚刷って一人で5万人に配りました。なんとか杉並区の公民館で上映することが出来たんですけど、蓋を開けてみたら東京だけで2日間で2000人(!)もの人たちが観に来てくれて。自信になりました。この作品がすべてのきっかけになっています。

‐‐‐ 影響を受けている作品、監督はありますか?

さっき話に出た、お世話になった映画監督達はもちろんのこと、マーティン・スコセッシ監督やその代表作『タクシードライバー』にはかなり影響を受けています。『魂のアソコ』は鳥肌実版タクシードライバーをやったつもりです。撮り方、キャラクター設定までこだわりました。あとはニューシネマと呼ばれる時代の作品=人間ドラマには影響を受けていますね。

‐‐‐ 映画を撮るにあたってこだわっている点は?

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男女物語
出演: ツージーズ、
ジョニー大蔵大臣、コマツ 
まずキャスティングですね。普通の役者さんは使いたくないっていうのがあります。ミュージシャンやアーティストが中心です。ミュージシャンは自分の魅せ方を知っているし、普通の役者さんからは想像できないような"動き"をしてくれますから。なので役者さんを起用する場合はあえて役者さんの演技を崩す作業をします。これも井筒監督から勉強させていただいたところが大きいです。ベテランの役者と素人とを絡ませて、あえて空気を壊す作業をすると面白かったり。あり得ないキャスティングにして、一つの世界を作ろうと思っています。

あとは社会性も絡めるようにしています。『カルトムービー』は最近の事件をネタに描いていますし。一見バカ映画なんですけど、みなさんが関心をもつ社会の出来事や事件に関連させるっていうのが私のスタイルです。



‐‐‐ さそり監督の映画に出演したキャスト(鳥肌実さん、綾小路翔さんなど)は皆有名になっています。キャスティングに何か秘密があるんですか?

キャスティングは直感ですね。ライブや舞台に行って、この人は自分の映画に向いてるな、って思ったらその場で楽屋へ押しかけ声をかけます。これがみなさん結構応じてくれるんですよ。そういうこともあり、普段から無名なバンドさんのライブなんかを積極的に観に行くようにしています。 結果としてみなさん有名になっておられて私も嬉しいです。

‐‐‐ "さそり"のネーミングの由来は、梶芽衣子さんの『女囚さそり』だとか?

そうですね。『女囚さそり』はビジュアルとしてかっこいいんですよ。黒ずくめの格好をしていて、悪役で主人公で、復讐をしていくっていうのは他には無いんですよ。本人にお会いしたこともあって、目の前で「恨み節」を歌ってもらったこともあるんです。好きすぎて格好まで(笑)。格好については、いわゆる"監督っぽい"ものを壊したいというのもありますね。

‐‐‐ 監督活動をしながら、シャンソン歌手までやられているんですね。

今でも全国各地で公演を行ったりしていますよ。シャンソンは演劇的で良い意味で自由。相手に歌詞を伝える、ってことが一番大事なんです。そこは映画と一緒。相手にメッセージを伝える、相手に喜んでもらう、っていうのは表現者として大前提です。あとは映画の編集っていうのは基本的にこもって黙々と、っていう作業なんでそういう時に発散したい、歌いたいっていうのがありますね。歌っていると、映画の撮影したい!ってまた思うんですけどね。

‐‐‐ プライベートも映画漬けですか?

とにかく映画漬けです。一日2本以上、年間で1000本くらいの作品を観てるのかな。それを20年くらい続けているから、え~と...。映画に体質が合ってるんだと思います。ただほとんど自宅で衛星チャンネルで観ることが多いです。

そうそう、最近の映画館ってやけにお高く止まっていませんか?映画>お客、というか。昔は2本立て、3本立ての上映が当たり前で、観に行く方も好きな時間にふらっと入って、途中からだったら次の回でまた二回目を観る、みたいな。好きな映画は何回観たっていいと思う。シネコンが増えて、回転させなきゃいけないのも分かるけど。映画観るのに予約して、始まるまで時間潰して、なんてあり得ない!観る人あっての映画でしょ!映画館に元気が無いのもそこら辺に原因がある気がするなぁ。

‐‐‐ 新作も撮られているようですね。

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現在制作中『エッチエッチワールド』
今は『エッチエッチワールド』という作品を撮っていて、来年の春くらいには公開できると思います。編集が終わったら、カフェや公民館を借りてすぐ上映するつもりです。撮影が終わって公開が一年後なんていうのは映画界じゃ当たり前ですけど、私はそのスピードに耐えられない。だって今社会で話題の事柄をテーマに撮っても、公開が一年後じゃ意味無いですよ。それで結局お蔵入りになった作品も相当ありますよ。

制作をほとんど私一人でやっているので一年に一本つくるのが限界ですね。撮らない期間があると鈍っちゃうので、一年中常に撮っているという状態ではあります。そろそろ依頼されて撮る映画もやっていきたいな、とも思ってるんですけどね。


インタビュー中、言葉の端々で「観てくれる人があっての映画」ということを強調されていたのが印象的でした。作り手の自己満足に陥らない作品作りを常に意識されているからこそ、カルト的人気を誇る今のさそり監督があるのだと感じました。


快くインタビューに応じていただき、さそり監督どうもありがとうございました。

第1回ゲスト佐藤福太郎監督にご紹介いただきました(佐藤監督ありがとうございます)



iconさそり
映画監督/シャンソン歌手/ライター

小学生時代は天才・神童だったが中学時代、頭をぶつけて馬鹿になる。
コードネーム「ジーコ内山」として大川興業、竹中直人の弟子を経て俳優になり映画『ファンシイ・ダンス』『マルタイの女』『呪怨2』『日本以外全部沈没』『ギララの逆襲』『伝染るんです』等出演。鳥肌実主演『魂のアソコ』、アーバンギャルド『天才馬鹿』、津田寛治『スコーピオン&スネーク』、しじみ(持田茜)『カルト・ムービー』監督。(STUDIO VOICE ブログより)

- INFO -
公式HP: http://zeeko.kt.fc2.com/
ブログ: http://ameblo.jp/tensaibaka/
twitter: http://twitter.com/sasorikantoku
STUDIO VOICEにて「さそりの美少女映画館」執筆中

『魂のアソコ』 予告編
B000F2BPFM制作期間10年を費やした山田花子原作の問題作。原作のキャラクターを忠実に再現するため、一人一人キャスティングしていったというこだわり。全国から上映依頼が殺到。観た者は皆狂うと言われ、上映禁止、失神者続出。『ザザンボ』『ピンク・フラミンゴ』『ゆきゆきて神軍』に並ぶ危険な作品。

高知オフシアターベストテン日本映画部門 /第二位
シネトライブ2003映画祭オープニング作品
主演: 鳥肌実
出演: 綾小路翔、立島夕子、なにわ天閣、蛇道広純、エキゾチカ

『アーバンギャルド天才馬鹿』 予告編
B002DPHDT6『魂のアソコ』から5年。馬鹿映画ブームを先取りした、早すぎた青春ラブポップビザールコメディの傑作。アーバンギャルドのサウンドが炸裂。キューブリックもぶっ飛ぶ脳内ロードムーヴィー!これでいいのだ! 
主演: 松永天馬(アーバンギャルド)
出演: 楽珍トリオ(WAHAHA本舗)、コンタキンテ、坂上弘

『スコーピオン&スネーク』 予告編
津田幾度となく愛に裏切られても、くじけずに愛に生きる売れない画家の男の愛の物語を描く異色のラブストーリー。『トウキョウソナタ』『20世紀少年』など日本映画界には欠かせない存在の津田寛治が男の愛を体現し、やがて女装の世界に魅せられていく画家を熱演する。
主演: 津田寛治
出演: みさこ(神聖かまってちゃん)、松永天馬(アーバンギャルド)、紗彩、杉山夕、足立雲平、マイキー女王様、サイケデリ子、玉虫ナヲキ



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