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映画制作の現場で活躍する"作り手"の方々にスポットを当てた連載企画「MOVIE MAKER」
第3回のゲストは、映画製作チーム「Project Yamaken」リーダー兼監督として数々の作品を手がけ、『キヲクドロボウ』では劇場公開も果たした"やまけん"こと山岸謙太郎監督です。

プログラマーやホームページ制作をしていたという山岸監督の、映画を撮り始める意外なきっかけなど、横浜にあるオフィスにお邪魔して様々なことを伺ってきました。 
 

映画監督を目指していなかった映画監督


‐‐‐ やはり小さい頃から映画監督になるのが夢だったんですか?

山岸監督(以下略): 実は「映画を撮りたい」っていう明確な意思があったわけではないんです。2000年頃、ちょうど日本でもITベンチャーが盛んで、インターネットが一般に認知され始めたとき、僕はいろんなお店や会社のホームページ製作の仕事をしていました。

昔からゲームが大好きで、専門学校でもゲーム制作のプログラマーとしての勉強をしていました。ゲームを自分で作ったり。将来は自分の好きなパソコンやインターネットを使った仕事が出来ればなぁ、ぐらい(笑)。

‐‐‐ そんな山岸監督がProject Yamaken(やまけん組)を結成するに至る経緯を教えてください。

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身振り手振りを交えて
笑顔で語る山岸監督
割と早くからブログをやっていて、趣味で脚本みたいな文章を載っけていたんです。たぶんそれを見たのか、あるとき「インターネットで人を集めて映画を作るっていう企画を考えているんですけど、一緒にやりませんか?」という誘いがあって。正直映画には興味無かったんですけど(笑)、"インターネットを使って"というのがなんか面白そうだなと。そのプロジェクトに参加しました。参加したのはいいけど、いきなり一つのプロジェクトを任されてしまうことになったんです。監督も何も出来ないのにですよ?そもそもあまり映画に興味が無かった(笑)。

とにかく「Project Yamaken」っていう名前を仮で付けて始まったんです。インターネットで10人くらいが集まって、さぁやろうってなった時に、そもそもの発起人が自然消滅(!)。それでも人は集まっちゃってるし、どうしようかなって。せっかくだから、一本だけ撮って思い出にして解散しようか?ってことで撮り始めました。なんとか完成したものの、これが全然面白くない(笑)。これが自分の撮った生涯でただ一本の作品となるのかぁ、と。いや次こそは本気出して作ろう、と。それもまた面白くないんです。それから同じ繰り返しです。で現在に至るんですね。

映画『キヲクドロボウ』は劇場公開、海外進出(第11回上海国際映画祭公式上映作品)まで果たしています。
‐‐‐ 何が起きたんですか!?(笑)

ひたすら有名な作品、名作と言われる作品を観るようにしました。あととにかく吸収しなきゃ、って映画関連の本、特に有名監督が残している映画についての本なんかをたくさん読みました。これも途中で分かった事なんですけど、やっぱり黒澤明しかり、宮崎駿しかり、名監督と呼ばれる人達は、子どもの時からもの凄い量の映画、しかも良質な映画を観てきているんですよ。もうこうやったら良いシーンが撮れる、良い映画が出来る、っていうのが理屈抜きに体に染み付いてる。作家の石田衣良さんが言っていたんですけど、「僕は良い本しか読んできていない。だから自分で書くときも良い本が書けるのは当たり前」。はぁ〜、と(笑)。僕はそういう人には敵わない。

僕の場合は映画を観る度に、なんでここは面白いんだろう?と、いちいち立ち止まって、因数分解のようにバラバラにして、こうやって見せているから面白いんだ、っていうところまで何回も何回も重ねて理屈で理解しようとします。いろんな映画、映画監督を参考にしながら模索していく中で、ようやく自分らしさっていうのが見つかってきましたね。

‐‐‐ 現在の山岸監督に影響を与えている作品はありますか?

ゲーム好きな僕が特に好きなのが、メタルギアで有名な小島秀夫監督のゲーム『スナッチャー』。サイバーパンクと言われるジャンルです。調べてみると、あの映画『ブレードランナー』がモチーフになってることを知りました。実はこれまた原作は小説なんですけど、あの世界観がすごいなって思ったんですよ。あの"近未来"、"退廃した世の中"、"配管むき出し"な感じがたまらないです。自分の今の作風にも大きく影響しているでしょうね。

‐‐‐ 映画を撮る上で山岸監督のスタイルみたいなものはありますか?

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「これも見ます?」と取り出して
きてくれた貴重な絵コンテ
(写真はキヲクドロボウのもの)
いつも絵コンテをがっちり描いてから撮影に入ります。そうするのはスタッフに素人が少なくないということがあるので。専門用語で指示するより、絵コンテ見せてこういう感じ、ってやった方が早いですから。でもそれがある意味僕のスタイルみたくなってて。プロのスタッフ、俳優さんを相手にする時でも、イメージを固めてから撮影に入る、っていうのは一緒です。

一番大事にしているのは、世界観。現実っぽいけどちょっとずれた感じが好きですね。普通の世界の中で普通の話をしてもつまらない、っていう僕の考えがあって。そういう意味では『トンズラ・ファイブ』はその世界観が全面に表れています。

トンズラ・ファイブは本当に新感覚ムービーでした(笑)。
‐‐‐ 吉本の売れっ子芸人、女優の水野美紀さんも出演されていますね。

あれも撮影に関しては、自主制作スタイルをとっているんですけど、吉本興行とYahoo!からの依頼で制作したんです。ネット動画ということで、新たな試みでした。普通の映画と違って、お客さんがじっと席に座って観てくれるわけじゃないですから。ウインドウの"×ボタン"を押したら、はい終わり、なわけで。視聴者を掴み続けるっていうアイデアが必要で、アメコミを参考にした今までに無いものに挑戦しました。効果音を文字で入れたら面白いんじゃないか、コマからコマに読んでいく漫画風にしたらもっと変わった感じが出るんじゃないか、って随分と試行錯誤しましたね。観た人が「なんだこれは!」ってなるような作品にしたかったんです。

出演者は4人の芸人さんの中に、女優の水野美紀さんを起用させていただくことで作品として締めたいと思ってました。いつもは知り合いの伝手を辿って探すことが多いんですけど、水野さんの場合は、うちの石田(石田肇監督 キヲクドロボウでは原案、一人でVFXを担当)が以前関わった仕事の打ち上げで話したとかで、いけるよ的なこと言い始めて(笑)。それで改めて依頼したらなんと"OK"でした。

映画『トンズラ・ファイブ』 予告編


‐‐‐ どんな風にアイデアを映画として形にしていくんですか?

こんなのが撮りたいなー、というのが一つ決まったら、それに対してリサーチをかけてとことん調べます。『キヲクドロボウ』の時は、"脳医学"というアイデアから始まり、脳の記憶のメカニズム、回路についてまで調べていって、いつの間にかストーリーがSFアクションから緻密なサスペンスになってました(笑)。もう一人の監督の石田に「もっと簡単にしよう!」って言われました(笑)。一つの世界観を作るにも、やっぱり隅々までこだわりたいし、ちゃんと調べたことから生まれるものは説得力がありますからね。とことんリサーチした中で副産物的に出たアイデアの組み合わせ、っていう手法は多いですね。

‐‐‐ 山岸監督の今後は?

「やまけん組」としてではないですけど、山岸謙太郎として商業映画のお仕事を頂きました。これからそっちに取り掛かるという感じですね。クライアントさんがいることなので、"自主"のようにはなかなかいかないですが...


映画監督志望ではなかったという山岸監督ですが、"自分は何も知らない"と人一倍貪欲に映画に取り組んできた、努力の監督のように感じました。予定時間を大幅にオーバーし、3時間にわたるインタビューにも親切に応えていただきました。

快くインタビューに応じていただき、山岸監督どうもありがとうございました。



山岸_icon山岸謙太郎
映画監督/アゾットトータルマネジメント㈱ 取締役/
映画製作チーム・プロジェクトヤマケン リーダー

横浜在住。自らがリーダー兼監督を務める「Project Yamaken」で自主映画の制作から上映までを行う。専門学校時代にはゲームプログラマーの勉強。パソコン教室の講師、ホームページ制作の仕事などを経て、現在に至る。
本人曰く、今でも自分の脚本がゲームっぽいというのがコンプレックス。

- INFO -
Project Yamaken 公式HP: http://www.projectyamaken.com
制作日記: http://kiwoku.jp/nikki/
twitter: http://twitter.com/#!/yamaken77 

その他の主な作品
逃想少年 2002年作品/50分
PROJECT YAMAKEN SHORT FILMS 2004年発売

『キヲクドロボウ』 クロックワークスより全国のレンタルDVD店で絶賛レンタル中
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キヲクドロボウ 公式サイト 
キヲクドロボウ シネマトゥディ 
YouTube 予告編 
人間の記憶をデータ化し、保存できるようになった近未来を舞台に、1人の女性の記憶を巡りさまざまな思惑が交錯する本格SFアクション。2人の若手監督、山岸謙太郎と石田肇が総制作費300万円という低予算ながら、これまでの自主映画の常識を覆すエンターテインメント性にあふれる世界を構築した。随所にわなを張り巡らせたスリリングな展開のストーリーや、VFXを駆使した迫力のアクションやビジュアルセンスに注目。

・うえだ城下町映画祭(大賞受賞作品)
・TAMA CINEMA FORUM
・上海国際映画祭(インターナショナルパノラマ部門入選)
主演: 正木 蒼二
出演: 木村 有、森川 椋可、太田 美恵 



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