TBSラジオ『ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル』の22時からの人気コーナー、無差別型映画評論「ザ・シネマハスラー」。
毎週サイコロで観に行く映画を決める、お馴染みコーナーだが、1月23日に放送された回のお題は『ソーシャル・ネットワーク』。「フェイスブックはやったことがないけど、絶対に観たかった映画。」と語るRHYMESTER・宇多さんが批評する様子を書き起こしてみた。
 
4861915570TBSラジオ: 
ライムスター宇多丸のウィークエンド・シャッフル
毎週土曜日21:30~24:30
※掲載内容について 本記事はPodcastアップされている音声を元に、文字情報で内容を理解できるよう書き起こしを行ったものです。掲載内容について不備がありました場合には、修正、掲載中止等の対応させて頂きます。お手数ですがご連絡をお願い致します。

会食一発で名シーン!!

あとはジャスティン・ティンバーレイクはね、本当に最高のハマりっぷりを見せている、あのショーン・パーカーナップスターの創立者のショーン・パーカーが、ニューヨークで会食する場面ありますよね。あそこでエドワルドから文字通り全てをかっさらっていく、その会食一発で名シーン!!素晴らしかった。 アレも実際にはマーク・ザッカーバーグの彼女とエドワルドの彼女とショーン・パーカーがいて、ショーンとマークが話に夢中になっちゃって、残りの三人が置いてけぼりっていう状況だったらしいから、要はエドワルドだけが孤独感を味わっているという場面に、やっぱりコレは映画用にしてるわけじゃないですか? つまりマークとエドワルドの関係に物語の焦点を絞っているということですよね。因みに映画ではショーン・パーカーが登場したから、エドワルドが追い出されるっていう顛末になる、そのきっかけとなる西海岸でも「フェイスブックを広めようぜ!!」って言い出すのは、肝心のエドワルドって、この映画の皮肉な構造なんかも良く生きてると思いますけど。要は以上、クドクドと何を言ってきたかというと、フェイスブックそのものに焦点を当てる、もしくはその事実性とかっていうことよりも、やっぱり作り手たちは明らかにその骨格としての悲劇性っていうかその物語性みたいなものに重きを置いてるのは、僕は明らかじゃないかなという風に思ったんですけどね。

全てのものからフラットに距離を取ってるクールさ

ただ、ただしです。そう簡単には言えない部分があります。つまりその語り口が時として非常にグレー。グレーっていう言い方にちょっと語弊があるならば、徹底してフラットなわけですね。なので、例えば物語としての因果応報から来るカタルシスみたいなものからは、はっきり距離を置いた作りになってたりもする。どういう事かというと、要はマーク・ザッカーバーグっていう人が本当に何を考えていたかっていうのが明示されないわけですよ。あるいは「これひょっとしたらマークがやったことなんじゃないのか?」っていうのを、ぼんやりグレーに示唆されている。 そのまま答えは出ないまま映画は終わっちゃうので。それによって例えば、宙吊り感を感じる、いい意味でも悪い意味でも、宙吊り感を感じる観客もいるだろうし。また別の人は例えば、旧エスタブリッシュメントとの戦いなんだっていうところに、自分の鬱憤を投影して大いに溜飲を下げることも出来る余地もあるし、マーク・ザッカーバーグにどうしても感情移入できないという人は、逆に明らかにエドワルドには同情しやすいはずですから。という風に、いろんな見方とか入り口とか余地を多くとってあるわけですね。ある意味、全てのものからフラットに距離を取ってるこのクールさっていうのが、この作品を更に魅力的にしてる部分じゃないかという風に思います。その印象を強めてるのは例えば、トレント・レズナー(音楽担当)の音楽が綺麗なピアノの旋律で、そこになんか不吉の低音がずぅーっと流れているとか、結構ありそうでなかったバランスのナイス音楽を入れてたりとか、それも凄く良かったと思います。

うまいなぁ!!

語り口が重奏的だっていうので、「うまいなぁ!!」って思うのは、セリフ自体の情報量がもちろん多いのも確かなんですけど、そのセリフ自体の言ってることと別に、その時画面に映っているものとか、あるいは進行している自体とかが、セリフが指し示す内容以外のメッセージをすごく、もしくはそれを皮肉に強めてたりするメッセージを、すごく重層的に含んでいると、故に全く退屈するスキがないっていうことだと思いますね。例えば、エドワルドが口座を凍結しちゃいました。嫌がらせで、マークと電話でやり取りする場面がありますね。後ろでエドワルドのガールフレンドが、スカーフに火をつけて「あら大変!!」っていう自体がある。ここはもちろん、シーン自体は"エドワルド受難"っていう、一種笑えるシーンであるのは間違いないですけど。それだけじゃなくて、要はエドワルドとマークが「なんであんなひどい事したんだ!?会社が潰れちまうじゃないか!!」 で、エドワルドが「いや俺は怒りにかられて、ちょっと子供っぽかったかもしんないけど、そういう行動を取ってしまった」と言ってるその話の内容が、要は彼女が後ろでスカーフを嫉妬のあまり燃やしている。まさにその行動なわけですよ。エドワルドが怒りに任せて取ってしまった行動そのものを、彼女がなぞるわけですね。そして、マークは「その鎮火作業に大変な思いをしたんだ!!」というのを、自らエドワルドはしかも会話と同時進行で、話しながら消化器を取って演じてみせるという、そこも非常に皮肉にコメディなとこだし、同時にそれはマークの怒りをなんとか鎮火しようと努めているエドワルドの姿でもある、っていう3つくらい意味が同時に重なってるわけですよ。ここだけ取ってみても、よく出来ているという辺りで。全体がこの情報量なので、恐らくこういう構造、多層的な構造の全てを把握するのはあと何回か見ないと、気づいていないとこも多分あると思いますし、そういう辺りすごく見事な辺りだと思いました。

フィンチャーってキューブリックっぽいよなぁ

非常に複雑に時間軸が、行ったり来たりするのに、全く見る側をそれこそフェイスブックの知識なんか大してなくても、混乱もさせずに観せることが出来てるという、非常に緻密かつ丁寧に組み上げられた脚本だと思うし、それに対してなんか微妙な脚本で言ってることに対しても、微妙にいい感じのクールな距離感を取っているデヴィッド・フィンチャーの演出ですよね、やっぱね。例えば、その画面の設計の味も素っ気もないんだけどちゃんと深みを感じさせるあのなんかこうハイコントラストなあの画面とか、あとはやっぱそれぞれの演技が本当に素晴らしい。物凄くテイクを重ねたって話ですけどね。ハンパじゃない。そういうの含めて、「やっぱフィンチャーってキューブリックっぽいよなぁ。」って改めて思ったりしました。キューブリックが撮りそうな映画だなぐらいに思って観てましたね。トレント・ウェズナーのありそうでなかった音楽もあるし、色んなことがあった... 最終的にやっぱラストですね。色々あってですねぇ、まぁ古典的な物語なんだけど、最後にソーシャル・ネットワークっていう言葉の意味が、また違ったその重みをもって感じられてくるような名ラストですかねぇ。 だって事実面だけ取れば、オープニングと円環構造になってるって言いましたけど、マークはエリカに勝った状態のはずなんですよね、「ちくしょうっっ!!」って言って、(フェイスブックを)始めて、そこに彼女がいるわけだから。「なのに!!」っていうね。このラスト、さっき言ったようにフラットな解釈が開かれてますけど。僕はクリック音がですね、本当に魂の崖っぷちから発せられる心のノックのような、魂のノックのように聞こえる... 正直僕はねぇ、ちょっとぼろ泣きしてしまいましたね。その自分の考えが何なのかも、まだ説明しきれないところもあるかもしれないですけど。

アカデミー賞最有力候補みたいな作品をこういう言い方するのもなんか悔しい

ビールを「ガシャーン!!」のとこも良かったですし、あと学長とウィンクルボス兄弟がやり合うシーンとか最高でしたね。随所に笑える場面もいっぱいありましたし、見るたびによく出来てる部分を発見できたりとか、新たな発見があったりとか、見る人によっても印象は変わるんだけど、真ん中には太い普遍的にどの時代の人間でも共感できる古典的な物語の骨格もズビン!!と刺さってるという。こんなさぁ、アカデミー賞最有力候補みたいな作品を、こういう言い方するのもなんか悔しい気もするんですけど、いや、いい映画でした(笑)これは紛れもない傑作だと思いました。すごい映画だと思いました。 ぜひ観に行って頂きたいと思います。ほんとに心からオススメです!!ほんと良かったです、また行きたいぐらいです。 吹替版ちゃんと観たいかな、日本語で表現がどうなってるのか確認したいと思います。

Part1 Part2 pert3

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